世界文学会

Society of World Literature JAPAN

2023年度 第二回連続研究会のお知らせ

2023年度 連続研究会「戦争を問う」
第二回研究会  4月15日(土) 14:00-17:00

中村唯史 「二項式への違和と抵抗―近代以降のロシア文学における戦争の表象」
原 基晶 「チェーザレ・パヴェーゼ「丘の上の家」: 現実と神話、そして神に祈ること」

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※今回の研究会も、基本的にはオンライン開催とします。対面での会場も設け、登壇者とスタッフと運営委員らが対面会場から参加しますが、会場の都合上、原則としてオンラインでのご参加をお願いしております。対面での参加を強くご希望の場合には、別途、以下のメールにご連絡ください。hirayama@tamacc.chuo-u.ac.jp

<発表要旨>

中村唯史 「二項式への違和と抵抗―近代以降のロシア文学における戦争の表象」

 2022年2月に始まったロシア軍のウクライナ侵攻以降、二項式が世界中を徘徊し、日本もその例外ではなく急速に実体化しつつある。ひとが戦争という極限状況を表象する際には、どうしても「敵vs.味方」の図式が前景化してくるのだろうか。だが、たとえば対独戦従軍時の見聞に基づくワシリー・グロスマンの短編には、「ソ連vs.ドイツ」の二項式を穿つような記述も見られる。
 本報告では、①ひとの意識に二項式を成立させる「境界」の描かれ方、②その境界に語りの「視点」がいかに切り結んでいるかの2点に着目して、近代以降のロシア文学における戦争の表象を考える。取り上げるのは、19世紀前半から中葉まで長期に渡って戦争状態にあったコーカサスが舞台のプーシキン『コーカサスの虜』(1822)、レールモントフ『ヴァレリーク』(1840)、トルストイ『コサック』(1862)『ハジ・ムラート』(1904)や、現在のウクライナ北西部における1920年のソヴィエト-ポーランド戦争に取材したバーベリの『騎兵隊』(1926)等である。ソ連崩壊後のチェチェン戦争をトルストイの短編を用いて批判したポドロフ監督の映画『コーカサスの虜』(1996)にも言及する。


原 基晶 「チェーザレ・パヴェーゼ「丘の上の家」: 現実と神話、そして神に祈ること」

ネオレアリズモの中心的な作家とされるチェーザレ・パヴェーゼ(1908-50)は、詩作品と異なり、小説では自伝的な内容を語ることがないとされる。しかしその例外が、第二次世界大戦の空襲下にあるイタリア北部の都市トリーノでのパルチザン活動に参加した主人公が、ドイツ軍の弾圧を逃れ、故郷の丘の家に戻ってくるまでを描いた「丘の上の家」という小説である。この発表では、非人称動詞等の戦略的な使用やアレゴリー的表現、神話からの引用、当時の符丁的な会話などを、作品当時の時代状況を把握しつつ読み込み、作家の創作行為を、政治的対立の激化した世界における表現の可能性という普遍的な位相で考察する。特に冒頭の一文について、これまでとは全く異なる読解を行い、それによって『神曲』と比較することで、これまで、日本では「裏切り」をキーワードに理解されてきたパヴェーゼについて、キリスト教的観点から新たな解釈の可能性を指摘したい。

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