世界文学会

Society of World Literature JAPAN

2018年第1回連続研究会の要旨(動画あり)

2018年度 連続研究会
『時代と文学』第1回発表要旨
2017年12月16日(土)開催 第1回発表

「スヴェトラーナ・アレクシェービッチの『セカンドハンドの時代』におけるソヴェート社会について」
(杉山秀子)

『チェルノブイリの祈り』でアカデミー賞を受賞したアレクシェービッチはその後『セカンドハンド(使い古し-筆者 註)の時代』で著者のライフワーク、『ユートピアの声』を完結させた。歴史の⼤転換というべき1991 年のソヴェート政権崩壊前後の社会をアレクシェービッチが数千⼈の聞き取りを通じて得た⽣の声を我々に⾚裸々に伝える。まずこの⼤転換の政治的、歴史的背後における要因を当時駐⽶⼤使であったドブルイニンの回想録やCIA の秘録等を読み解きながら分析し、本⽂の第1 部⾚いインテリア の⼗の物語と第2 部インテリア のない⼗の物語に触れ、そこに浮き彫りになったロシア⼈の涙ぐましくも凄まじいばかりの⽣き様に⾔及してみる。

発表者著書:
『もう⼀つの⾰命―アレクサンドラ・コロンタイ《その事業》』(学陽書房、1994)
『コロンタイと⽇本』(新樹社、2001)
『コロンタイ ⾰命を駆け抜ける』(論創社:近刊予定)
(ユーラシア研究所、⽇本スラヴ東欧学会)



「技術をめぐる交友、ユンガー兄弟とハイデガー」(今井 敦)
―『労働者』『技術の完成』『技術への問い』を繋ぐもの―
第一次大戦の従軍経験を背景に、20年代には「新しいナショナリスト」を自認していた作家エルンスト・ユンガーとフリードリヒ・ゲオルク・ユンガーの兄弟は、その後、近代技術の慧眼な分析者へと変貌する。技術の本質を権力意志と捉え、その作用を「総動員/総流動化」に認める二人は、一方は肯定的、他方は批判的技術観を代弁するが、グローバル化や社会の流動化を予見し、ハイデガーとの交友を通じてその技術思想にも大きな影響を与えた。当発表では伝記的背景を解説しながら、この兄弟の技術論が持つ今日的意味を論じたい。

発表者著書・訳書:
『三つのチロル』(新風社、2004)、『ウンラート教授』ハインリヒ・マン(松籟社、2007)、『手を洗うときの幸福』ヨーゼフ・ツォーデラ―(同学社、2011)、『ある子供』トーマス・ベルンハルト(松籟社、2016)、『原因』Th.・ベルンハルト(2017)
(オーストリア文学会、国際トーマス・ベルンハルト協会)



「創氏改名を巡る歴史・文化言説」(鄭 百秀)
一九四〇年前後の植民地朝鮮社会では、朝鮮人の「姓」を日本人風の「氏」に替える、いわゆる「創氏改名」が実施された。それは、朝鮮住民を日本帝国の国民の内部に吸収しながらも、外地である植民地の非国民として位置づけようとした、典型的な<同化=差別>政策であった。
今回の発表では、「創氏改名」が日・韓文学、歴史においてどのように語られてきたのかを批判的に分析する。それによって、「創氏改名」言説に内在する自文化中心主義のイデオロギーを明らかにするとともに、そのイデオロギー的拘束から自由になる契機を提案しようとする。

発表者著書:
『韓国近代の植民地体験と二重言語文学』(アジア文化社:ソウル、2000)
『コロニアリズムの超克』(草風館、2007)
『日韓近代文学の交差と断絶』(明石書店、2013)
(日本比較文学会、韓国近代文学会)



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