世界文学会

Society of World Literature JAPAN

2017年度 連続研究会 第1回発表要旨

2017年度 連続研究会
『夏目漱石生誕150年によせて、「夏目漱石と世界文学」』
第1回発表要旨

 

田中実「近代日本小説における漱石…『夢十夜』を中心に」
当日は日本の近代小説とはいかるものか、村上春樹の処女作『風の歌を聴け』は実は鷗外の処女作『舞姫』を継承し、日本の近代小説は当初から語ることの虚偽・背理を超えようとして出発したのでした。これを漱石の『夢十夜』の「第一夜」を皆さんと読みながら、死んだ「女」が「百年」後、「自分」に活きて逢いに来る、ここには二つの「現実」がパラレルに存在することをお話することになるかと思います。

渡邊澄子「世界文学としての漱石…ジェンダーを中心に」
漱石は一四九年前の一八六七年生まれだが、主権在民・男女平等の憲法を持つ現在にあって少しも古びていないどころか、今なお先進性を発揮している類いない文学者である。彼は権力・金力を何よりも嫌った。たった四九年の痼疾の苦悩を抱えた生涯だったが、残されされた厖大な言説は奥が深く、読むほどに思索を迫られる。二五歳時に当時全く無視されていたホイットマンに着目し、その平等論への覚醒、親炙が漱石文学の礎石になっている。作家第一作の『吾輩は猫である』と最期の完成作『道草』は不思議にも見事に繋がっている。帝国憲法・教育勅語・明治民法の差別社会にあって人格形成されたにもかかわらず、漱石の近代的人権平等意識・感の獲得過程は感動の一語に尽きる。時間の都合上、『猫』と『道草』によって、表層的にならざるを得ないがジェンダーの視点から漱石を読んでみたい。

石川忠久「漱石の漢詩」
漱石の漢詩はその生涯の軌跡と深く関わりつつ進化し、50年の人生で完結している。漱石は、武家ではないが、江戸(東京)に生まれ、佐幕派の雰囲気の中で育ち、明治の新しい制度の下で成長して、漢詩のリテラシーを身につけていく。そこで、伊予松山の儒者の家に育った子規と運命的に出会い、互いに切磋琢磨する。この辺りまでが第一段階。松山に赴任し,子規としばしの交友の後、結婚、熊本への赴任。4年の滞在中に漢詩人、長尾南山との交友などにより、ここで新しい世界が開ける。これまでが第二段階。
二年の英国留学によって、漱石の心は大きく西へと傾く。帰国を前に子規の死。大学を 辞職し、小説の世界へ。10年の長い空白を経て、修善寺の大患、生死の境を迷い、ここで漢詩に目覚め、第三段階となる。
五言絶句で自画自賛を楽しみ、『明暗』の執筆中に七言律詩の大群をものにして完結。

開催日時:2016年12月17日(土)午後2時~5時45分

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