世界文学会

Society of World Literature JAPAN

2023年度 第四回連続研究会のお知らせ

第四回研究会  7月22日(土) 15:00-18:00

杉野 ゆり 「プーシキン『青銅の騎士』に描かれた<洪水>と戦乱」
河島 思朗 「ホメロス『イリアス』における戦争の描写 ー 人間を相対化する物語の構成と視点の誘導」

対面とzoomによるハイブリッド開催
〔対面〕 龍谷大学深草キャンパス、和顔館4階第3会議室(定員40人)
京阪「龍谷大前深草」駅から至近(徒歩2分)の東門を入るとすぐ正面にあるガラス張りの建物です。建物入口を入って左手のエレベータで4階へお上がりください。
アクセスマップは:https://www.ryukoku.ac.jp/about/campus_traffic/traffic/t_fukakusa.html

〔オンライン〕 zoomにて会場から中継
zoomのアクセス情報は以下のリンクから申し込み後、当日までにお送りいたします
https://forms.gle/qFBtAGev4ei3i4ZU9

懇親会 18時ごろ~ 京都市内にて

<発表要旨>

杉野 ゆり 「プーシキン『青銅の騎士』に描かれた<洪水>と戦乱」
 プーシキンの『青銅の騎士』(1833)は、18・19世紀ロシアや西欧の歴史的時空間を内在化し、さらにロシア文学の傑作、聖書やダンテ『神曲』からエピソードやモチーフを取り込んで世界図絵を描いた叙事詩的作品である。第1・2部に描かれた1824年のペテルブルクの洪水場面は多層的で、テクストの表層下には18・19世紀の戦乱の歴史が流れ、エヴゲーニーの物語では融合離反しながら作者が自分の人生を語っている。洪水や雨風の描写と狂気のエヴゲーニーの形象に「獣」の隠喩が多用されており、「獣」は1829年以降のプーシキンのテクストで反乱暴動、疫病、狂気のイメージを宿している。この連想は、流刑されたデカブリストらに会うため1829年に訪れたコーカサスで見た山岳民族の抵抗する姿、1830年代初めロシア国内でコレラが流行し、作者自身もコレラ禍に巻き込まれ、農民暴動が頻発した時代背景から生まれた。プーシキンは確かな事実を基と骨組みにして、『青銅の騎士』に壮大な詩的世界を構築して世界観と思想を表し、同時に反逆者たちに密かな鎮魂歌を捧げている。

河島 思朗 「ホメロス『イリアス』における戦争の描写 ー 人間を相対化する物語の構成と視点の誘導 ー」
 ホメロス『イリアス』は紀元前8世紀に作られたヨーロッパ最古の文学作品であり、戦争を描いた最古の叙事詩でもある。ギリシア連合軍対トロイア率いるアジア連合軍の戦いを描いた神話・伝説上の大戦争、すなわちトロイア戦争を題材とする。その戦場ではギリシア神話の名だたる英雄たちが活躍し、神々も集って戦闘に加わる。『イリアス』は世界を巻き込んだ戦争の叙事詩であると言えよう。
 ではこの叙事詩は戦争をどのように描いたであろうか。その描写にどのような文学的工夫を凝らしているのだろうか。本発表はこの問いを明らかにするために、大きくふたつの部分から構成される。
 第一に、『イリアス』の全体構成を確認しながら、文学作品としての特質と意図を論じる。第二に、第4巻に描かれる戦闘描写を「視点の誘導」という観点から詳細に分析することで、詩的技法を明らかにする。このふたつの論点をつうじて、『イリアス』という叙事詩が人間を相対化する視点を持ちながら、戦争を描こうとしていることを議論したい。

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