世界文学会

Society of World Literature JAPAN

2022年度第1回連続研究会のお知らせ

2022年度 連続研究会「疫病と世界文学」

第一回研究会  12月18日(土)  14:00-17:00

  1. 鈴木大悟 「カミュ『ペスト』の美学」
  2. 高橋誠一郎 「堀田善衛の疫病観-「戦争と惨禍」の直視」

研究会はOnline で行います。

参加希望者は、世界文学会事務局宛の問い合わせフォームで、「第一回連続研究会参加希望」と書いて、ご連絡ください。Online参加方法を折り返し連絡します。
なお、会員以外の希望者は、お名前とEメール・アドレスの他、所属、専門分野(関心領域)を書き添えてください。

 <発表要旨>

鈴木大悟 「カミュ『ペスト』の美学 ~ 孤独の複数形・侵された平和」

本発表は、20世紀のフランス人作家アルベール・カミュ(1913~1960)の長編小説『ぺスト』(1947年刊)を採り上げる。なかでもその「美しさ」で名高い海水浴のシーンを原文も交えながら読むことにより、カミュの文章のもつ「リズム」を可視化しながら、孤独や平和のあり方について検討したい。
しかし本発表はまず、今日のわれわれにつき刺さるカミュの言葉の紹介から始めてみたい。これらの予言的・教訓的言葉の数々は、説明を要さぬアクチュアリティーをもっているだろう。続いて本発表は、カミュの生涯と作品群を概観し、小説『ペスト』の位置づけを行う。カミュには連作という発想があった。『ペスト』はどのようなサイクルの一部をなすのか確認したい。第三に本発表は、小説の舞台設定、語りの構造、登場人物、主題などを整理する。物語における時と場所の抽象的な意味付けや、登場人物たちの魅力、とりわけ「ペスト」という語が含み持つ複数の意味を考察したい。
本発表は最後に、海水欲のシーンを読む。疫病と戦う二人の登場人物とって束の間の解放となったこの海の時間は、今日のわれわれに、連帯のひとつのモデル(モラル)を差し出してくれるだろう。カミュの言葉のあり様こそが、それを強く訴えかけるように思われる。

高橋誠一郎 「堀田善衛の疫病観-文明論的な視点から」

芥川賞作家の堀田善衞(1918~1998)は晩年の大作『ミシェル 城館の人』で、宗教戦争が勃発しペストが猖獗をきわめる中で家族を連れて方々を流浪しながらも、『エセー』を書き和平への努力を続けたモンテーニュの思索と活動を描き出した。
爆撃機や化学兵器も用いられた第一次世界大戦では約850万人が戦死したが、大戦中にはチフスなどが流行してその末期に発生した「スペイン風邪」では世界で数千万人が亡くなり、1918年にアメリカなどとともにシベリア出兵に踏み切っていた日本でもインド、アメリカ、ロシア、フランスに次ぐ39万人もの死者を出していた。
兵士の視点から米騒動にもふれつつ日露関係を踏まえてシベリア出兵の問題を描いた『夜の森』(1955)で日本におけるスペイン風邪の流行にも触れた堀田は、南京虐殺を扱った『時間』(1955)ではチフスやコレラに言及し、『橋上幻像』(1970)ではニューギニアの戦場における飢餓とマラリアの問題を描き、『定家明月記私抄』(1986)でも瘧(おこり)に言及している。
本発表では専門の仏文学だけでなく日本文学やロシア文学の造詣も深く、アジア・アフリカ作家会議にも関わった堀田善衞の疫病観を考察する。
(新著『堀田善衞とドストエフスキー 大審問官の現代性』群像社、2021年)

TOP