世界文学会

Society of World Literature JAPAN

2022年度 第4回連続研究会のお知らせ

2022年度 連続研究会「疫病と世界文学」
第4回研究会  7月23日(土) 15:00-18:00

今井敦 「死の部屋からの帰還 ― 患者としてのトーマス・ベルンハルト」
磯崎 康太郎 「疫病と秩序――シュティフター『ピッチ焼き職人』を中心に」

研究会はOnline で行います。

参加希望者は、以下のリンクあるいはQRコードのフォームからお申込みください。Online参加方法を折り返し連絡します。

お申し込みフォーム→https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSexQOFJrOmCKmOI2bP9_cNXBih_Syd_-MkG_VWUD411mGM2ng/viewform?usp=sf_link

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<発表要旨>

今井敦 「死の部屋からの帰還 ― 患者としてのトーマス・ベルンハルト」

50以上もの言語に翻訳され、没後33年を経た今もなお新たな読者を獲得しているオーストリアの作家トーマス・ベルンハルトはとうに世界文学に属する存在と言ってよかろう。罵りにも似た長口舌、陰鬱さ、巻き起こした数々のスキャンダルにもかかわらず、なぜベルンハルトは読者のこころをつかんで離さないのか。強くオーストリアに関わる内容にもかかわらず、なぜ彼のテクストはオーストリアの外、ドイツ語圏以外の読者にも訴えかけてくるのか。理由の一つは、ベルンハルトが死を描いた作家であり、死に向かって歩んでいく存在として人間を捉えたからであろう。死との対峙がベルンハルト自身の生に結び付けて語られるのは、1975年から82年にかけて発表されたいわゆる自伝5部作、『原因』『地下』『息』『寒さ』『ある子供』である。とりわけ『息』と『寒さ』では、若きベルンハルトが死の病と闘う経過が語られ、並行して、最愛の祖父と、生涯正常な関係を築けなかった母の死が語られる。本発表では、この自伝5部作を対象に、生を牢獄として呪うネガティヴな作家というイメージとは少々異なる、主人公トーマス・ベルンハルトの姿を追う。

磯崎 康太郎 「疫病と秩序――シュティフター『ピッチ焼き職人』を中心に」

感染力と毒性の両面において、人類史上最悪の疫病と称されてきたペストは、15世紀から18世紀にわたって断続的にボヘミア地方にも伝播している。18世紀のその最後の波を、祖父から口頭伝承で知った19世紀オーストリアの作家アーダルベルト・シュティフター(1805-1868)は、短編小説集『石さまざま』(1853)中の作品『みかげ石』においてその惨状を描き出したことが知られている。しかし、同作が、平穏な現在という語り手の立ち位置から、一つの逸話としてこの厄災が描かれているのに対し、同作の原型となる雑誌稿『ピッチ焼き職人』(1849)では、この厄災が作中の枠内物語として、質、量ともにより大きな意味を有している。そこで本発表では、この雑誌稿を中心に取りあげ、19世紀中葉にこの疫病が主題化されることの意味について考えてみたい。シュティフターが三月革命への予感のなかで描いた同作は、ペストの蔓延による家庭的、社会的秩序の崩壊を描いており、さしあたりそれは革命や戦乱に対する警告という意味を持つはずである。しかし、それを超える、ペスト収束後の見立て、社会的暗示についても考察してみたい。

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